医局員募集

留学研修報告(2010〜2012年留学)

助教 柿坂啓介

私は2010年9月から2012年4月までアメリカに基礎研究を行うために留学していました。留学先は、アメリカ中央、五大湖のスーペリオール湖の東端をウィスコンシン州との境界にするミネソタ州、第三の都市RochesterにあるMayo Clinicでした。Mayo familyにより創設されたこのクリニックは、その医療水準の高さから世界中から患者が受診のために訪れています。また、創設時から「研究者を広く受け入れ教育する」という思想をもつクリニックであり、多くの留学生が国内外から訪れています。

私はDr. Gregory Goresの研究室で脂肪毒性と肝細胞アポトーシスについて研究しました。この研究室ならびに隣の共同研究者Dr. Nicholas LaRussoの研究室も併せると当科にも日本にも縁が深く、当科の諸先輩方のみならず、多くの日本人がこの二つの研究室に所属していました。先に述べましたように日本以外からも多くの留学生を受け入れているため古参のスタッフは、英語を母国語としない留学生に優しく英語が不得手だった私が話すことも辛抱強く聞いてくれました。ここで毎日浴びるほど実験をしていました(もちろん週末は息をぬくこともありますが)。

さて研究生活にもメリハリがあります。研究のメリハリは、ほぼ毎週あるラボミーティングです。金曜日の午後3時から一週間で得られたデータと次の実験の方針をラボのスタッフと議論するものです。私は拙い英語での報告でしたので、概して他のメンバーと比較してとても短く淡泊なものになりがちでした。さらに報告が短いと、なぜ短いかを英語で話さなければなりませんでした。居た堪れない私はなるべく多くの実験と多くの結果を見せ、ミーティングで自分の話す時間を増やすために毎日の実験に励むことになりました。邪な理由で実験を頑張ったわけですが、そのおかげで2年に満たない留学期間に論文をだすことができました。もちろんボスの根気強い指導のおかげであることは言うまでもありません。

一日のメリハリは帰宅後の家族と過ごす時間とアルコール補充です(ここは日本と変わりません)。英語がなかなか通じず思うようにいかない一日を過ごしてきても、家族との時間がその辛さを和らげてくれました。喜ばしいことではありますが、留学生活のなか瞬く間に子供たちに英語能力を抜かれたのも今は良い思い出です。

一年を通してのメリハリは毎年12月に行われるRetreatと呼ばれるラボ内のミーティングです。メイヨーの会議室兼記念館で行われます。その日はラボの全員で朝食をとり、一日を全員で過ごします。はじめにボスから通年の発表論文数、全体の研究進行状況、グラントの締め切りなどが発表されます。その後、全員が一人45分の持ち時間に研究計画を発表します。この発表は来年に自分がしてみたい研究を、既存の総説やデータを基に立案し発表します。計画をボスが了承すれば、実際に実験がスタートしていきます。発表の時間は、友人たちの普段語られない研究への情熱を聴く貴重な時間となります。毎年この時間に語られた多くの夢は次の年に論文としての第一歩を踏み出していきます。このRetreatは研究室の活力維持のために行われていますが、それと同時に研究者としての心構えや夢の抱き方、夢の魅力的な語り方を、多くの留学生や国内の研究者の卵たちに教えるために開催しているようです。メイヨー兄弟の教え育むという精神を身に感じた留学生活の大切な思い出です。

母国語が使えない地域での留学は非常によい体験でした。コミュニケーションツールとしての英語の重要性を再認識することができた。更に、伝えられないもどかしさを身をもって経験し、気持ちが伝えられることの重要性を痛感しました。留学前の私はほかの人と交流する場合、いかにうまく話すか・伝えるかに重きを置いていたような気がします。しかし、よく聞いてくれることが話し手を安心させることを知り、傾聴することの重要性が認識できたような気がします。自身でこの気持ちに気が付けたことは、職業人としてだけでなく人間として大きな糧になったと確信しています。留学で研究業績が増えることは、大学人としてもちろん望ましいと思います。実際、Dr. Goresの指導のもと論文を書き上げることができました。ただ、それ以上に医者として教育者として必要なものを得られたと思っています。海外を目指すこれからの皆さんに英語のできない私が勧めるのも変ですが、ぜひ留学することをお勧めしますし、私どもの後輩にも同じように留学を勧めています。

●進路を迷われている医療従事者の皆さんへ

もし皆さんが私たちの話を聞きに来てくれるなら、もう少し詳しく留学やキャリアについて話ができると思います。皆さんが将来どのような道を目指すかはもちろんわかりませんが、同じ志をもったみんなで歩めれば、毎日一歩一歩進むことも苦にはならないはずです。大きな目標に向かって皆さんと一緒に進んでいければよいなと思います。興味をもっていただけた方は医局に一報いただければうれしいです。





留学研修報告(2013〜2014年留学)

助教 宮本康弘

私は先代の鈴木 一幸教授、現在の滝川 康裕教授の御厚意を受け、H25年4月からH26年3月までの1年間、アメリカミネソタ州ロチェスターにあるMayo Clinicに留学してきました。当地はカナダの国境に接するアメリカ中西部に位置し、夏は30℃を超すものの、湿度は高くなく、過ごしやすいです。冬は大変寒さが厳しく、連日-20℃以下の日々が続きました。1月の20年ぶりの大寒波に際しては-35℃を記録し、体感温度は-50℃と寒さよりも痛さを感じる環境でした。

私が所属したのはGI Basic ResearchのDr.Gregory Goresが主宰する研究室でした。Dr.Goresは胆管細胞癌、NAFLD(脂肪性肝疾患)を中心とした研究を専門としており、私はNAFLDに関連した研究をさせて頂きました。ER(Endoplasmic reticulum:小胞体)ストレスによる変性蛋白質(unfolded protein)の蓄積、それによって引き起こされる小胞体ストレス応答 (unfolded protein response: UPR)を基盤に様々な条件で実験を行って来ました。臨床を離れ、研究に没頭できる環境はとても貴重で、大変濃密な時間を過ごすことができました。毎週行われるミーティングでは一週間の研究結果を報告するのですが、言葉の問題を抱えながらも乗り越えたことが今になってはとてもいい思い出です。Mayo Clinicにはアメリカのみならず、世界各国から研究者が訪れており、私が所属した研究室もアメリカ人はボスとfellow1名、research assistant 3名以外はすべて他国からやってきており、とても国際色豊かでした。内訳はインド、イタリア、スイス、チェコ、カザフスタン、ウクライナ、プエルトリコ、パキスタン、中国、そして日本と色々な国から集まっておりました。

アメリカで様々な国の仲間に囲まれて仕事をしたことは、国際的視野を持つ重要性を実感させられるものでした。医学のみならず、各分野においても日本から発信されるものもあれば、海外から持ち込まれるものもあります。内から外へ目を向けることができ、かつ自分のプレゼンスをアピールすることが必要とされる時代になりました。このような経験をさせていただけた事は、代々我が消化器内科医局が若手の研究や海外留学を奨励する環境であったからこそです。今後、研究活動や海外留学を志す先生方、もしくは消化器内科学講座入局を考えている医学生の方達には、この環境を大いに利用していただきたいと思います。

最後にアメリカでの生活について、少しお話させて頂きます。
アメリカは生の魚を食べる習慣がなく、なかなか刺身が食べられないことがストレスでした。ロチェスターにもアジアンフードショップがありますので、米や醤油、味噌、カレー粉などの調味料を購入し、日本食を食べていましたが、米は現地米があるので価格差はありませんが、調味料は日本製で日本の3倍〜5倍程度の値段がつき、かなり高価です。また牛乳や水は1ガロン(3.79L)のボトルに入っており、サイズの違いがあります。冷蔵庫にも専用のスペースがあり、あまりの大きさに驚きました。またアメリカの肉は赤身を食べる習慣で、日本のようなサシの入った肉はほとんどなく、肉本来の味を楽しめると思います。お店の種類は多彩で中国、ベトナムなどのアジア料理のほか、イタリア、フランス、南米など大体現地でもご当地の料理を楽しめます(もちろん当たりはずれもあります)。日本食のお店もありますが、大体が中国人が経営する寿司屋や鉄板焼屋がメインでロチェスターにもありますが、日本人の料理人がいるお店はミネアポリスまで行かないとありませんでした。

私はスポーツ観戦も好きなのですが、4大スポーツといわれる野球(MLB)、バスケットボール(NBA)、アメリカンフットボール(NFL)、アイスホッケー(NHL)全てのチームがミネアポリスにあります。ロチェスターから1時間半〜2時間離れた場所ですが、全て見ることが出来たのも大変いい思い出です。今年は30年ぶりにMLBのオールスターがミネアポリスで開催されるので大変盛り上がっています(毎年各球団の本拠地を巡り、次回戻ってくるのが約30年周期になります)。

研究に没頭する時間ができたことも大変貴重でしたが、土日は自由な時間が持てましたので、結婚して初めてというくらい家族と一緒の時間を過ごすことができました。この1年は自分の人生の中でも大変充実した時間となりました。

研究留学はアカデミックな技術の習得ばかりでなく、新たな人とのつながり、未体験の文化に触れるなど短期間の中にも数多くの経験ができます。限られた期間ですが、その期間以上に貴重な時間となることは間違いありません。そのチャンスがあれば是非とも留学することを考えてみて下さい。
この機会を与えて下さった鈴木一幸先生、滝川康裕教授、また送り出してくれた医局の全先生に感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。

リンク集
岩手医科大学
岩手医科大学附属病院 岩手医科大学 内科専門医研修プログラム